穆如清風(おだやかなることきよきかぜのごとし)
―複雑系と医療の原点 単行本 – 2010/12/10
中田 力 (著) 日本醫事新報社
アマゾンのリンク↓
https://amzn.to/49DddYy

また今週もセミナーで学んだことが患者さんに通用しなかった…
そんな経験はありませんか?
実は、それはあなたの技術が未熟なのではなく、
医療という営みの本質的な性質によるものかもしれません。
なぜこの本を手に取ったのか
医師であり日本やアメリカで現場や研究に携わり、ファンクショナルMRIの世界的権威で。複雑系科学の専門家としても知られる方です。
この本は2010年に発刊されており、この本以前にもとても興味深い本を複数書かれている方です。
人を診るというセラピストとしての立場から非線形・複雑系という考え方をもっと理解したいと思い購入しました。なんど読み返しても学びがある内容です。この本は2013年に購入しましたが、今でも私一番のお勧めと言える本です。
本書の核心:複雑系と非線形とは
本書のキーワードになっているのが複雑系と非線形です。
複雑系=多数の要素の相互作用から予測困難な全体的振る舞いが創発するシステム
•非線形=複雑系の重要な特徴の一つ。部分の足し算では全体が説明できない、比例しない関係性
我々の周りには複雑系・非線形性が満ちあふれているというものであり、医学に絶対的な正解が存在しないということが前提に話を勧められています。
セラピストであり、特に「⚫️⚫️疾患にはこれ!」という本に騙されたとか、自分がダメなんだと感じている方に読んでほしい内容です。
印象的なトピックス:本書が教えてくれた臨床の本質
・自然との関係を考える限り、人間が奢れば奢るほど良い結果は生まれてこない。医療実践はその典型で、分かったような線形医学知識を掲げて余計なことをすればするほど、患者さんには迷惑がかかる。心ある臨床医はそのことをきちんと理解しているのだが、独り歩きを始めてしまった医学と、線形思考から抜け出せない権威者と呼ばれる人たち、そして勉強を忘れ、確認作業を怠るマスメディアによる扇動のような情報によって、国民全体に医学と医療に対する誤解が渦巻いている。
世の中には線形情報がたくさん溢れています。その発信者は自身の情報の限界を確信しながら発信している場合もあれば、それが真実として発信している場合もあります。
情報の受け手側が成長しなければ、このような状況はなかなか変わらないと思いますね。
・医学は複雑系の代表であり、その行動は「非線形」である。ところが医学を学問として捉えた場合、どうしてもその方法論は「線形」のものとなる。物理学でさえも「非線形」における扱いが始まったばかりの時代に、その高次応用科学である医学で「非線形」の方法論を適用するのは、ほとんど不可能なのである。
以前の書評である「エビデンス」の落とし穴 読んでみたでもあったようにエビデンスと「個別性」の問題を述べてられます。
神を信じた時代→学問に結論を求めた時代→量子力学により学問が万能ではないことがわかった現代。
セミナーで学んでも、次の週末には「・・・・」となっている経験も多いのではないでしょうか?
この現実を踏まえて実際にセラピストは臨床現場でどうすればいいのか?考える必要があります。
・現実的には、病に悩む人々に複雑系の理論を説いて納得を促すことは無理である。現場の臨床医は神に尋ねることも許されず、医学に全てを委ねるわけにもいかず、不確定さを理解した上で、患者の選択すべき道を決定論的に示さなければならない。最も適切な選択は経験則だけが教えてくれる。しかし、それが必ず良い結果を生むとは限らない。だからこそ医療は、医師と患者との間に、ある種の盲目的な信頼関係がなければ成り立たないのである。
目の前で苦しい思いをされている方がいる。そんな方に対し力になれない自分。その辛い感情に共感し辛くなる自分。そんな状況で苦しい思いをしているセラピストは多いことと思います。
万能ではない可能性をもつ自分の知識や技術。それは磨き続けながらも、他の要素(心理面など)の重要性について言及をされていると感じます。
・医療の基本は患者に適切な情報を与えることと、患者自身の自然治癒力を手助けすることにある。たとえ外科手術でけりがつくような簡単な症例であったとしても、最終的には患者自身の組織が「元通り」に戻る力を発揮しない限り、病気は治らない。複雑系においては、特殊な形態が、ある条件下で自然に形作られていくことが知られている。それは「自己組織力」、もしくは「自己形成(Self-Organization)と呼ばれている。
・医療行為そのものの原則を記載するとすれば医療とは「適切なオーダー・パラメター(系の行動に最も影響を与えやすいパラメター)を見つけて、それを適切に操作することにより、適切な自己形成を促す行為」と定義できる。
私が「セラピストが治す」ではなく、「セラピストは相手の可能性発揮のお手伝い」が大切だと感じれるようになったのは、本書の影響が大きいです。
自己形成については脳の学習機能の要素がマルコフ連鎖・ポリアの壺型強化、フィボナッチ的再帰を組み合わせたものとして書かれています。(詳しくは動画や本書をご参照ください)
この形成・学習過程を理解することで、適切なオーダー・パラメターは何かを追求する意識を持つことができ、結果患者さんは変化するということを臨床でよく目にします。
以前にはオペ適応と言われた下肢の激痛に苦しむ患者さんのオーダー・パラメターは心理・社会面でした。それが分かって以降はスムーズに改善しオペ回避となったことがありました。
・人の命が恐ろしいほど危ういバランスの中で保たれていることを知れば知るほど、自然の偉大さに圧倒される。それでも、患者さんを診ていると、人体がその驚くほど繊細でほとんど不可能に思える命の保全を、不動の力強さで成し遂げていることにも感動する。生命は極めて壊れやすいものではあるが、同時に、それほど簡単には壊れないものなのである。ここに複雑系の極意が隠されている。
同じ疾患名で、同じようなところに痛みがあっても一人一人症状の原因や起因、また回復のプロセスも全く違います。
20年理学療法士として仕事をしてきて、日々人間の奥深さ・繊細さを感じるようになってきています。同時に予想を超える変化を見せてくださる方もいて驚き・感動することもあります。自然がもたらす偉大なものに触れているような感覚を味わえるのはこの仕事一番の醍醐味だと思っています。
・個々の人間が自分の哲学を持ち、それでも、それを絶対的なものとはせず、「ゆらぎ」を認め、時代時代でともに生きる為の方法論を模索する。たとえすぐに答えが見つからなくても思考を停止せず、何事においても神格化することで安易に結論をだそうとしない。
・徳を好むと言う生き方とは、自分勝手ではなく、それでも他人の目を気にせず、自分が選んだ人生の中で自分自身を磨くことを忘れずに生きていることであろうから、国家がどうすることも、他人が教えることもできない。自分がどのように生きるかを自分が決めなければいけないように、それぞれの人間がそれぞれの心で実践するものである。
医師としての在り方について書かれている部分の抜粋です。理学療法士として立場は違いますが、この考え方もとても大きな影響を受けました。
この言葉のおかげで、

真理は存在するだろうが、一生辿り着いたり、認識することはないんだろうな。出来る事は、ただただ一歩一歩前に進み続けるだけ。
という感じで、マイペースですが行動し続けることができています。
専門書もよいですが、このような本に触れることで、今までの学びを整理できるキッカケになるかも知れません。
読んでみた方と語り合いたいなぁと思えるとても重要な本です。
アマゾンのリンク↓
https://amzn.to/49DddYy
本書に興味を持たれた方は上記リンクを経由してご購入いただけると私の活動の励みになります。

コメント