以前レビューを書いた穆如清風(おだやかなることきよきかぜのごとし)の脳の学習モデルを通して慢性痛への理解とアプローチについて整理してみました。
穆如清風では脳の学習方法を理解する一つモデルとして「ポリアの壺+マルコフ連鎖+フィボナッチ」が述べられていました。
確率的な自己形成過程を説明するために解説されていました。
理学療法士としての文脈でそれぞれの要素を理解して、臨床に活用したいと思って記事を書いています。慢性痛における「確率自己形成モデル」についてです。
前提:慢性痛は「学習された自己形成パターン」
急性痛は「危険信号」です。安静にしてれば治ります。
一方、慢性痛は「一度学習された痛みの予測・回避パターン」が自己強化され、自動化・固定化された状態と言えます。
【初期の痛み経験→強化→自動化のループ】が、ポリアの壺・マルコフ連鎖・フィボナッチを用いてで解釈できると思います。
ポリアの壺:痛み回避パターンの自己強化
五分五分の確率があるものでも「引いた結果を強化する」自己強化型確率過程のことです。
Hehhの法則:「共に発火するニューロンは結合する」にもあるように中枢性感作(Central Sensitization) や オペラント条件付けにあたる部分です。
例:慢性痛
初期の痛み経験(例:腰痛発症時)が「痛み回避行動」のボールを増やし、その回避行動が「痛くなかった」→さらに強化→運動制限・筋緊張・不安・回避の悪循環が自動化される。
「使うほど強くなる」=痛み回避回路がどんどん太く・自動化される、というイメージです。
マルコフ連鎖:痛み予測の状態遷移ループ
ある状態から次の状態に移行するルールが決まっていて、同じプロセスが繰り返されていく過程のことです。
慢性痛で言えば、現在の状態(不安・予測)」が「次の行動」を決定するというプロセスです。
① 立ち上がろうとする(状態A) → ② 「痛くなるかも」(予測) → ③ ゆっくり・緊張して立つ(回避行動) → ④ 痛くなかった(報酬)→⑤ 次も同じ回避行動が選ばれやすくなる(ポリアの壺)
遷移法則:現在の「身体感覚+痛み予測+不安度」で、次の行動とその結果の確率が決まる。
初期条件(ポリアの壺):最初の痛み経験で「この動作=危険」という遷移確率が学習される。
これを繰り返すうちに、「自動的に緊張・回避を選ぶ」状態が固定化します。
フィボナッチ:多階層・再帰的な痛みパターン
フィボナッチ数列は1つ前と2つ前の値から次が決まるというものです。この本では一つ前の歴史も付け加えて現在と未来を導き出すプロセスとして説いています。小さな回避行動が、生活全体、ひいては人生(人格)という大きな構造にまで自己相似的(フラクタル)に影響を及ぼすという構造イメージで用いられていると解釈しています。
レベル1:単発動作(立ち上がり)→痛み予測→回避
レベル2:動作パターン(歩行)→痛み予測パターン→回避パターン
レベル3:日常生活パターン(外出・家事)→痛み予測シーケンス→回避生活様式
レベル4:信念・感情(「自分は痛い体」)→長期予測→回避人格
各レベルが「直前のレベルを組み合わせた再帰構造」で構成され、小さな動作レベルの回避が、日常生活全体・人格レベルまで自動化・固定化される、というイメージです。
リハビリ介入のストーリー
ポリアの壺 → 「脳の投票箱」
- 「痛みを避けるたびに、脳という投票箱に『回避票』が入ってしまいます。リハビリは『動いても大丈夫票』を投票し直す作業です」
マルコフ連鎖 → 「自動予測変換」
- 「スマホの予測変換のように、『立つ』と入力しただけで脳が勝手に『→痛い』と変換して身構えてしまう状態です」
フィボナッチ → 「波紋(または雪だるま)」
- 「最初の小さな痛みの経験が、波紋のように広がり、最終的に性格や生活スタイルまで飲み込んでしまっています」
治療は:
① 新しい動作を少しずつ試して壺のボールを入れ替える(正常動作の強化)
② 痛み予測を修正するフィードバック(遷移確率の更新)
③ 小さな成功を積み重ねて階層を上書き(再帰構造の書き換え)
このモデルの強み(臨床で使える点)
- 「あなたのせいではない」と伝えられる(脱・自責)
- 「あなたが弱いから」ではなく、「脳が確率論的に学習してしまったシステムのエラー(ポリアの壺)」と説明することで、患者の自尊心を傷つけずに習慣を変える動機づけができます。
- リハビリの目的が明確化する
- 「筋力をつける」ではなく、「壺の中のボール(確率)を入れ替える作業」と定義することで、地味な反復練習の意味が伝わりやすくなります。
- 「痛み」と「損傷」を切り離せる
- 痛いのは「患部が壊れているから(構造)」ではなく、「脳が痛みを予測しているから(マルコフ連鎖)」という認知の転換を促せます。
まとめ
あくまで私の解釈ですので、その点をご理解くださいませ。
本書はこれ以外にも様々な視座を与えてくれる貴重な本なので是非読んでみてくださいませ。
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